不動産小説シリーズ② 『価格破壊』城山三郎
不動産業界の題材にした小説の紹介シリーズ、第2弾は『価格破壊』という城山三郎さんの小説です。
この本はドラッグストアを起業する脱サラした矢口が主人公です。ドラッグストアは不動産とは関係ないかもしれませんが、出店戦略やお店を賃貸するのか買うのか等のテーマから仕入れや販売方法、人事まで幅広く主人公が悩み答えを出していく葛藤が会社経営者として非常に参考になるためご紹介します。
内容
第2次世界大戦が終わり、復員した人間が商売で一旗揚げる過程を描いた小説。
主人公の矢口はフィリピン戦線を生き抜き、財閥系の鉱山会社に就職していたが、一念発起してドラッグストアを開店する。
ドラッグストア業界では、販売価格がメーカーに決められ、小売店はその価格で売りさえすれば確実に利益が得られるという構造だった。矢口はその構造にクサビを打つことを目論見、あの手この手で安い商品の仕入れルートを作っていく。メーカーも負けじとその仕入れルートに圧力をかけて矢口の店に売らないように仕向けていくが、徐々に業界に価格破壊の波が押し寄せ、メーカーの嫌がらせも及ばなくなっていく。
しかし、災難はそれだけにとどまらず、政治家からの圧力や信用していた右腕の裏切りなど次から次へと問題が発生する。矢口は戦争から生き帰った持ち前の不屈の闘志で諸問題を次々に切り抜けていく。
「一度は死んだ体である。思い切って爆発した人生を送ってみたい。(中略)ありきたりのクスリ屋ではなく、商人として徹しようと思った。」
「誰にも特殊な才能があるわけではない。どこまで努力できるかで、才能が決まる。眠っている要塞砲より、撃ちまくる迫撃砲が、矢口には必要であった」
「その困難さは矢口にもわかっていてた。だが、餓死寸前の兵士に命令するのではない。敵地ではないし、地図もある。電話も使える。車もある。人も使える。」
「人間の実力にはたいした差はないと考える。そして誰にも同じようにツキは回ってくるのだが、そのツキが回ってくるのをどこまで辛抱強く待ち続けることができるかで勝負は決まる」
と、戦争での体験を引き合いに、商売でも力強く、ときにしぶとく生き抜く様を軽快なタッチで綴られています。戦後のベビーブーマーより少し上の世代、まさしく戦争に行っていた人が興した会社の力強さはこういうところに起因するのではないかと思いました。