不動産売買のディープな話 その1
とある不動産会社からとある物件を紹介されました。
この不動産屋さん、名前を仮に不動産会社A社長としましょう。
このAとは前にも会ったことがあるのですが、この不動産会社Aは結構いわくつきの物件を紹介してくるのです。なぜか権利関係や人間関係が複雑な案件ばかり扱っているみたいで、きれいさっぱり簡単な物件を持ってきた試しがありません。どこでそんな物件を見つけてくるんだ?と思えるくらいヘンテコなものばかりです。
Aはメガネをかけたおっさんで頭部の真ん中に髪はありません。両脇には生えています。脂ぎった感じで目がいつもギラギラしています。いつも綿パンにポロシャツで、黒い肩掛けポーチでやってきます。
怪しいおじさんなのですが、なぜかそのおじさん社長が持ってくるアヤシイ物件の裏側の事情を聞くのが好きなので、なんだかんだつきあいが続いています。
そのAがまた物件を持ってきたのでした。
「まいど!また仕入れてきました。秋田の物件なんですけどね、これ土地と建物の所有者が違うんですけど、結構いいと思うんですよお」
土地と建物の所有者が違うことはよくあるので、続けて話を聞きます。
「これね、建物の所有者が転売したがってる物件でして、土地とセットでいけますよ!地主もしっかりしてる会社だし、ちょっと整理したらいけますわあ」
ちょっと整理?なにを整理するんですか?と聞くと
「いや、これね、大したことないんですが、土地のバイケイがマカレテルんですわ。いまマエダが処理してますから!」
ん?バイケイがマカレテル?マエダ?
「いやこれ、撒いちゃってるんですわ、売契」
バイケイ=売買契約書、マイチャッテル=撒いちゃってる ということらしい
「建物の所有者がBっていうんですが、Bの担当者が知恵つけちゃったみたいで、でもマエダが処理してますんで。マエダはAから委任状もらってるんで、ちゃんとしてますう」
まったくわからない。マエダ=前田(人名)らしいことはわかった。前田さんって誰ですか?と質問
「前田は地主から委任状もらってるんで。地主のおっさんと仲がいいんですよ、信頼してるんでえ」
よくわからない。撒いちゃってるってどういうことですか?
「いや、これ地主の娘婿が勝手にやっちゃったらしいんですよ。Bの担当者に知恵つけられたみたいで。その担当者が悪い奴で。クビにしたんで、大丈夫ですう」
Aは語尾を伸ばすくせがある。悪い人ではないが話がよくわからないのが難点。個別の論点を聞く前に、そもそも背景とか全体感の説明がよくわからないのでいつもこちらが質問するのがルーティンになっている。
娘婿がなにしたんですか?
「もともとね、Bは地主に黙って建てちゃったんですよ、建物。で、娘婿が勝手に土地売っちゃったんですよ、Bの担当者に唆されて。」
まだ話がわからない。なぜ勝手に建てる?なぜBの担当者と地主の娘婿はつながっている?つながっているのになぜ無断で建てさせた? 疑問がいっぱい
「だからあ、Bは勝手に土地に建物を建てちゃったんですよ」
地主に黙って勝手に?
「そおお。勝手に建てて。で、娘婿は遊ぶ金が欲しかったのか、Bの担当者から土地を売ったら?って言われたらしいんですわ」
いやいや、娘婿だろうとなんだろうと、まず地主側はBに抗議しろよ笑 なんでBの担当者に遊ぶ金の調達方法聞いてんだよ笑 と思いつつ、話を聞きます。
「で、娘婿が10人くらいに土地売ったんですわ!前田が処理してますんで特に問題ないですけどね。いやもう社長がカンカンですわ!わっはっは」
笑ってる場合ではないよ、と心でつっこみつつ前田とは何者なのかまだわからない
「ハンコも嘘だし、連絡つかないし大変みたいですよ、前田!」
ハンコが嘘ってなんだろう?
「いや、もう全部偽造ですよ、ハンコ。自分でつくったんちゃうかなあ」
と、どこか遠いところを眺めるA。どうやらハンコは偽造らしい。なるほど、地主側が騙されたのか、と思いきや
「いやいや、ハンコ作ったの娘婿ですよ!」
なんと!娘婿が義父の印鑑を偽造して契約書に捺印したらしい・・・
それで義父がカンカンに怒っていたのか!勝手に建物は建てられるし、印鑑は偽造されるし、その義父、ゆるゆるだなと思いながら話は続きます。
「でね、10人に土地売ったでしょ?そのうちの1人が気付いたんですよ!頭いいよねえ」
そりゃ、ハンコ偽造してたら誰かは気付くだろ。でも地主側でハンコ偽造するっていうのも聞いたことがないわ。
「土地全部同じだったんですよ!」
んん?土地が全部同じ?ハンコに気付いたんじゃなくて?
「そうですう。同じ土地を10人に売ってて、それに気づいたんですわ!」
いやいやいやいや・・・娘婿 同じ土地を10人に売るなよ 二重譲渡どころじゃないよ・・ 絶対いつかばれるだろ!苦笑 もうこの時点で腹を抱えて笑い転げそうです。でもがまんがまん
ここまでの話を整理すると、Bに勝手に建物を建てられた土地の地主Cの娘婿は、Bに遊ぶ金の調達方法を相談し、その土地を売ればいいと助言を受けた。娘婿は義父Cの印鑑を偽造して、その同じ土地を10人に売却するべく売買契約書を締結。バイケイをマイチャッタというのは売買契約書を10人と締結したことを意味しているらしい。契約書をばらまいたということの様子。そしてその処理を前田という人物に託したらしい。
その前田さんは何者なんですか?
「あれ、前田と会ったことないの?」
ねーよ!
「そっかあ、名刺交換してなかったかあ」
いや、そもそも会ってないって!
「前田はCのおやっさんと仲がいいんですよ、義理の息子がハンコ嘘ついて売契撒くから、なんとかしてって頼んだらしくって」
前田さんは司法書士とか弁護士とかなんですか?
「いや、不動産関係だね。」
そうだろよ!
「爬虫類みたいな女だよ、だから独身なんだよ!」
前田さんは女性らしい
「一度食らいついたら離さないからね、あれ」
いまだに素性がわからない。地主の義父と前田さんはどういう関係なんですか?義父が経営している会社の社員とかなんですか??
「俺が紹介したんだよ!」ドヤ顔
いつ?
「先月かな、ゴルフでね」
義父と旧知の仲かと思ってたら、あんたが紹介したんかい。知り合って間もない人に会社の土地の二重譲渡の処理を任せるってすごいな・・ゴルフやってる場合か!
でも、そもそもBが建物を勝手に建てたのはいいんですか?普通文句言いますよね?
「でも賃料入ってくるからいいんじゃない?」
いいんじゃない?じゃないでしょ。勝手に土地に建物建てられて賃料入ってくるから、いいっかって思えるそのおおらかさは一体なんなんだ??
そもそもなんで勝手に建てるんですかね?
「そりゃ、売るんでしょ、建売だよ、Bは」
他人の土地に勝手に建物建てて、その建物を誰かに売るのかよ・・・・買う人かわいそう・・・
って、それ、Aがうちにこの物件持ってきたのってうちに売るためじゃん!
今の時点で、Cの土地は10人と売買契約が締結されていて、ハンコは偽造、契約相手の一部とは連絡が取れておらず、そもそもその土地に建てられている建物は、地主の了承を得ず不法占拠している状態で賃貸契約も何もないという状況。
そんな物件、うちに持ってこられても・・・・・
「ま、そうだよね、ガハガハ。前田が処理したらきれいになるから、ちょっと考えておいて!」
そう言い残してAは帰っていきました。
※この商談内容は、地域や人物像はブログ用に編集していますが、ストーリーの概ねの内容は事実です。不動産業界は瓶に入った水のようなもので、大手・大企業は上澄みの綺麗な物件を扱っていますが、そこにたどり着くまでに、瓶の底ではこういう摩訶不思議な商談がしょっちゅうあります。このAという不動産会社は非常にネットワークが広く、不動産業界の瓶の底の世界では顔が広いようです。