28歳満点宅建士が不動産会社を開業する実況中継

宅建実務試験満点の宅建士がインターネット不動産会社を起業!

地上げ屋達の攻防戦 用地買収の実務

地上げをやっている不動産会社はどれくらい日本にあるのでしょうか?

 

地上げられた土地はいくつかの中堅会社を経ていずれ大手不動産会社に買われていきます。そうして大手に買われた土地はニュースや新聞で報道されるような大きなビルや商業施設の用地に変貌していきます。

 

 

大手企業は用地取りまとめや地権者との交渉などが苦手なのでそういった中堅不動産会社に用地取得を事実上委託しているのです。つまり、そうした商業施設が成立するためには、地上げ屋のような存在が必要不可欠なのです。しかし、大手不動産会社は地上げの現場をあまりよくわかっていません。どのように始まり、どのように用地がまとめられていくのか、現場からその事情を少しご紹介します。

 

 

事例:工場用地130万平米の用地取りまとめ

①芽吹き~署名活動~

多くの場合、バブルの頃に地価が高騰した都心部から離れた郊外でゴルフ場や新興住宅街の構想が発足しています。地元貢献や地元の産業振興のためにどこからともなく発生したゴルフ場計画。適当な区画の候補がいくつかあがり、その中でも地権者が土地を処分したり賃料が欲しい人が多い地域では地元の協議会が発足し、署名活動が活発化します。

 

②見切り発車

署名活動はやがて賃貸同意書や土地利用承諾書のような契約書に準じる書面に、地権者から署名捺印が集められていきます。その署名が集まったことを背景に地元の土建会社が見切り発車で造成工事などを開始したりします。地権者の数は300を超えるときもあります。

 

③工事の中断

しかし、その造成工事も資金繰りが厳しくなって途中で放棄されてしまいます。ボーリング調査や地籍調査で放棄されることもあれば、砂利や砂の搬入、ブルドーザーの投入まで進む場合もあります。ですが地権者の同意が得られても事業性が認められず融資が下りなかったのです。そのため途中で工事がストップするのです。

 

④計画のとん挫

工事がストップしてもおよそ10年に1度のペースでゴルフ場計画や新興住宅街計画が持ち上がります。過去の計画をどこかで聞いた不動産企画会社がすこし計画を改善して一儲けしようと企むのです。しかし、その都度計画は資金繰りなどでとん挫します。

 

⑤土地の集約

20年程度経つと纏まっていた地権者の中で相続や単独での売却を進めようとする者が現れます。一度まとまっていたはずの地権者達が時の経過とともにバラバラになっていくのです。すると、ゴルフ場などの不動産企画会社のうち、④のように少しでも計画を進めようとする会社がその土地を買い占めてしまうのです。ライバルの不動産企画会社を出し抜くために、そしてゴルフ場計画の利権を少しでも多く得るために、計画の実現性が低くても土地に先行投資するという作戦なのです。すると、300の地権者で構成されていた区割りが、もともと地権者がまとまっていた区画と、土地の処分に応じた不動産会社の区画の2つに分かれ、複数の不動産会社が入り込んでいると、土地はモザイク状にグループが分かれていくのです。それでも地権者が300人だった土地が50~120程度の地権者に集約されます。

 

⑥土地の更なる集約

④のように計画が再度持ち上がるたびに、土地は、もともとの地権者グループA、先行投資した地元不動産会社の所有地B、C、D、E・・・とどんどん集約されていきます。B、C、D、Eはそれぞれ違う不動産会社でそれぞれがゴルフ場や新興住宅地計画で一儲けしようと企んでいます。しかし、それでも計画は計画のまま実行されずに時が経過し、Eが諦めてDに売却したり、Bがバブル崩壊で倒産したりし、さらに地主は20~30に集約化されていきます。

 

地上げ屋の登場

そんなあるとき大手メーカーがどこかの地方都市郊外に自社工場をつくる計画を発表します。計画面積は130万平米。しかし、そんなひとまとまりの土地はなかなかすぐには見つかりません。すると、ある地元の不動産会社が数十年前のゴルフ場計画を思い出します。100万平米超えの土地の地権者が団結していた過去があるので、取得は非常に容易だと考えたのです。さっそく地元の有力者のもとに事情を聴きに行くと、計画が何度もとん挫し、結果として地主が複数のグループになっていることを知ります。しかし、この商談を纏めきれれば数億円単位の莫大な収入が見込めます。地元不動産会社が10年かけても稼げないような大金です。なんとしても関わりたい。そこでその地元の不動産会社だけではまとめきれないので、関西なら大阪、東北なら仙台、九州なら博多の中堅不動産会社のところに相談しにいきます。地上げで有名な中堅不動産会社では、土地を売らせるプロの「見切り屋」、土地を放り出させるプロの「立ち退き屋」、相続関係を壊して土地を売らせるプロの「崩し屋」などと連携して土地をまとめていくことを決断します。

 

地上げ屋の攻防

同じ計画地にそういった地上げ屋が2~3社現れます。それぞれが競合です。まず公図をもとに、地権者の確認と自分たちに土地を売却してくれるかどうかを色分けしていきます。「ここの地権者は我々の味方、ここはまだ決めかねている、こちらは地権者が行方不明、あちらは他の地上げ屋に土地を売りそう」。そういう情報を地元の飲み屋や役場、土建屋から必死でかき集めるのです。中堅不動産会社が金を出し、地元不動産屋や立ち退き屋、見切り屋などに活動費を手渡します。その額、数千万円。その金で24時間365日情報収集活動を進めます。買えそうな地権者がいればその日のうちに契約をしてしまう勢いで次々と公図の色を塗り替えていきます。しばらくすると公図の色が徐々に塗り替えられなくなっていきます。無党派層がどちらかになびき、残るは基盤の硬い(どの地上げ屋に売却するか決めた)地主だけになるので、用地買収が停滞するのです。

 

地上げ屋の挫折

20~30に集約された土地は地上げ屋達によって3~4の所有者にまで集約されます。しかし、そのうち資金が尽きたり、土地の占有率が低い地上げ屋グループは勝算がないと考えたりして、どちらか高く買ってくれる地上げ屋に土地を売って、地上げ攻防戦から脱落していきます。130万平米の土地は2つの地上げ屋によっておさえられる結果になります(元々の地権者から実際には買わずに、売買予約契約や覚書など買う約束を取り付けておくだけのことが多いですが、地上げ屋達は買っていなくても「おさえた」という表現を使います)。

 

⑩大手不動産会社の登場

地上げを行った中堅不動産会社は⑨の段階までいくと大手不動産会社に連絡をとります。相手の地上げ屋を出し抜くためにです。工場を建設しようとする大手メーカーは中堅の不動産会社とはあまり取引をしません。背後に地元の暴力団がいるかもしれないことや、取引銀行に配慮して銀行系列の不動産会社しか利用しないこともあるからです。そこで中堅不動産会社はそのメーカーと取引がある大手不動産会社を探し出し、なんらかの伝手をたどって、自分達がまとめ上げた成果をアピールします。大手不動産会社は「見切り屋」などの活動実態など知りません。しかし、取引のあるメーカーに工場用地を提供できればそれなりの収益になるため、その中堅会社の話を聞くことにし。現場視察することにしました。

 

⑪地権者の動揺

⑨の段階で、地上げ屋に自分の土地を売る約束をしていた地権者は自分の懐に大金が転がり込んでくると思い込んでいます。しかし、⑩でライバルの地上げ屋が大手不動産会社を「現場視察」に連れてきたことで地権者達は動揺します。自分たちが売ろうとしていた地上げ屋は土地を買ってくれないかもしれない、むしろその大手不動産会社を現場視察に連れてきた地上げ屋に売ったほうが確実に金になるかもしれない、と思うのです。この「現場視察」は派手に行われます。地上げ屋は役場や町長に「都会の不動産会社がメーカーの工場用地候補地の現場視察に来た」と誇張して連絡するのです。地元振興や選挙で有利になりたい町長や町議会議員は、自分たちの実績にするべく、なんとしてもその大手不動産会社のご機嫌を取ろうと、町ぐるみでメーカー工場誘致に協力的な風土を作ろうとします。地元のスナックや居酒屋でもその話で持ち切りになります。その噂はもちろんライバル地上げ屋に土地を売ろうとしていた地権者の耳にも入ります。それをきっかけとして雪崩のように大手不動産会社派の地上げ屋の地権者達が駆け込んできます。

 

 

⑫大手不動産会社の決断

現場視察に来た大手不動産会社は地上げを行っている中堅不動産会社から土地の纏まり具合を数カ月かけて見守ります。「買う」とは約束しないものの、もし土地の纏まり具合が進めば優良物件になるため、定期的にその中堅不動産会社に連絡をとり、モニタリングします。中堅不動産会社はその後もどんどん地権者の切り崩しを進めます。一度、大手不動産会社が現場視察に来て、町長や重役、有力者に名刺を渡しているので、買収のスピードは高まります。とうとうほぼ90%程度の買収に成功したことを伝えると、大手不動産会社はついに工場用地を探しているメーカーの用地部に「候補地」としてその土地のことを伝えます。こういった「候補地」は複数あり、ショートリストとして資料にされ、メーカーへプレゼンされます。

 

⑬メーカーの視察、そして決断

複数の候補地からメーカーは、土地の広さ、幹線道路との近さ、地元の受け入れ熟度、工場労働者の確保のしやすさなどの条件の中から良さそうな土地を選び、なんども現場視察をします。社長や役員たちも現場視察をし、町長と地元の料亭で酒を飲み、どの用地にするかを見極めます。そして1つの土地に絞り込みます。その情報を聞きつけた大手不動産会社はほぼ決まりとして中堅会社にのこりの10%の用地を買収するよう暗に指示を出します。大手不動産会社の意向を忖度した中堅会社は残りの10%の地権者から土地を買いあげ(覚書や売買予約契約)、メーカーの決断を待ちます。メーカーの社内稟議を経て、メーカーから大手不動産会社に買収資金が支払われます。大手不動産会社は中堅会社に、もしくは中堅会社を経由せず、別につくった箱だけの会社と地権者とで直接売買契約を締結し、中堅会社に10億円程度の成功報酬を支払い、中堅会社は協力した地元不動産会社に数億円程度の金を払います。箱会社とメーカーとで売買契約を締結させることで用地取得が完了します。

 

 

撤退したライバル地上げ屋は今まで使った資金の大半はムダ金になってしまい、倒産したり夜逃げしたりします。しかし、おさえた土地をうまくライバル地上げ屋に売り払ってプラスマイナスゼロに持ち込む猛者もいます。

 

 

こうして数十年かけてゴルフ場候補地はメーカー工場用地に変貌します。工場の完成式典には町長、メーカーの社長、工場建設費や土地代を融資した銀行役員、大手不動産会社の役員が参列し、盛大な式典が開催されます。しかしそこには中堅不動産会社や地上げ屋達はいません。そういった華やかな世界に彼らは存在していないのです。歴史に刻まれない地上げ屋達は、完成式典なんてうらやましいとも思わず、今日もどこかの飲み屋で地権者の情報収集に励んでいるのでしょう。